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最高裁判所第二小法廷 昭和56年(行ツ)156号 判決 1982年2月12日

和歌山市黒田一二番地

上告人

株式会社東洋精米機製作所

右代表者代表取締役

雑賀和男

右訴訟代理人弁護士

澤田脩

藤田正隆

和歌山市湊通り北一丁目一番地

被上告人

和歌山税務署長

木村冨

右指定代理人

山田雅夫

右当事者間の大阪高等裁判所昭和五六年(行コ)第七号法人税確定申告期限延長申請却下処分取消請求事件について、同裁判所が昭和五六年六月一六日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の申立があった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人澤田脩、同藤田正隆の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができその過程に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 木下忠良 裁判官 栗本一夫 裁判官 監野宜慶 裁判官 宮崎梧一 裁判官 大橋進)

(昭和五六年(行ウ)第一五六号 上告人 株式会社東洋精米機製作所)

上告代理人澤田脩、同藤田正隆の上告理由

原判決は上告人の昭和五二年四月一日から昭和五三年三月三一日までの事業年度(以下単に昭和五二年度分という)の法人税確定申告の延長申請について、やむを得ない事由により決算が確定しない場合に該当するものと認めることができないとして、右申請を却下した被上告人の処分を是認した。しかし、右認定には次に述べる違法があり破棄を免れない。

一、原判決は一審判決をそのまま肯認しているが、同判決によると、上告人は昭和四七年八月三日より昭和四八年四月二五日までの間三回にわたって大阪国税局及び和歌山地方検察庁より無題ノートを含め多数の帳簿類等を押収され、右無題ノートは和歌山地方検察庁において保管中所在がわからなくなり現在なお所在不明であると認定し、しかし、上告人は昭和四七・四八年度分につきそれぞれ決算したうえこれに基き昭和四七年度分については「仮申告書」、昭和四八年度分については「確定申告書」と各題する書面を被上告人に提出しており、右はいずれも適式な確定申告であるとし、これを前提としたうえ、上告人は「右昭和四七・四八年度分の各決算及び申告はいずれも無題ノートを資料とすることなくされたものであること、上告人は無題ノート等を差押後も営業を継続し、右営業につき伝票、帳簿、書類を作成し保管していること等を理由に、上告人についてやむを得ない事由により昭和五二年度の決算が確定しえないものと認めることができない」と述べている(一審判決八枚目表十行目から裏六行目まで)。

しかし、一審判決、従って原判決はそもそもその前提となる事実の認定を誤っている。即ち、上告人は一審裁判以来、手許にある資料のみでは到底概算であっても、決算ができる状況にはなく、決算は不可能であった旨主張立証を尽してきたのであり、とりわけ和歌山地方検察庁に保管されているはずの「無題ノート」は上告人と財団法人雑賀技術研究所および雑賀慶二との継続的な特許料支払等に関する取決めが記載されており、右ノートが閲覧しえぬ状況では昭和四七・四八年度分の重要な債権・債務が確定せず、従って決算確定はおおよそ不可能であったと強く主張・立証してきたのである。

しかるに、原判決は昭和四七・四八年度に関しては肝腎の「無題ノート」の問題にも触れることなく、ただ、決算は可能であり確定申告は可能であったと判断するのである。

確定申告があったとの結論だけが先行し、右結論を導くため決算が可能であったと強引に判断するものである。原判決のこの論法によれば、「無題ノート」の問題は勿論、上告人の手許に如何なる資料があったかも問題とはならず、さらに「仮申告書」にしろ、「確定申告書」にしろ、一応形式的な体裁の整った書面の提出されあれば、それが如何なる経過で提出され、如何なる内容であったかも問題とならないかのごとくであって、右は明らかに理由不備、理由齟齬、の違法があり、とうてい納得できないのである。

二、殊に、昭和四七年度の「仮申告書」、翌四八年度の「確定申告書」にはいずれも「添付書」と題する書面が合せて提出されている。そして、この添付書こそ右申告書の性格を如実に物語っている。今これを昭和四八年度分についてみると、右「添付書」は現在決算確定ができない以上、将来修正申告や更正請求の必要が生じると予想されるが、これについても提出期限の定めがあるので不利益を受ける故申告期限延長の必要がある旨の説明をしているのであって、それはあくまでも昭和四八年度分の「確定申告書」が確定申告でないことを前提とするものであり、上告人の「確定申告書」提出の意図、確定申告をする意思のないことを明確にするとともに、前後の経過からそのことを十分承知している被上告人に対して念のため確認しているのである。右の点については、「添付書」の文言中に、申告書を提出するのが「不本意」であること、延長申請却下決定に対して異議申立を準備中であること申告書は「一応の提出」であること等が明記されていることからも十分うかがわれるのであり、また上告人が「添付書」提出後現に期限延長申請却下決定に対して、異議申立をしていることからもうかがわれるのである。

にもかかわらず、原判決はこの重要な点に全く触れるところがない。前述のように、原判決は昭和四六年度分の「確定申告書」の提出をもって適式な確定申告との結論を急ぐの余り、これに不都合なところは無視しようとするものである。

そして、右に述べたところは昭和四七年度の「仮申告書」についても同様である。

三、先にも述べたとおり、前記「無題ノート」は上告人と財団法人雑賀技術研究所および雑賀慶二との継続的な特許料支払に関する取決めが記載されているのであって、単に、昭和四七・八年度のみに関する問題ではないのである。従って、本件年度についても、その決算につき右無題ノートを必要とすることはいうまでもない。原審はこの点を看過している。

右のごとき原審の認定はまことに恣意的であって、証拠を無視したものというべく、理由不備、理由齟齬の違法がある原判決は取消されるべきであり、上告人は上告の趣旨のとおりの判決を求める次第である。

以上

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